こだわり市場をどう制覇するか!
〜 暮らし方に合わせた生活空間を具現化する 〜
住宅供給のあり方に変化がみられるようになってきた。それは、これまで住宅 という躯体を供給する視点から、生活者の暮らし方を実現させる視点へと変化し てきたからである。
商品開発の変遷を簡単に整理すると、住宅ニーズの多様化が進み住宅総合展示 場のモデルハウスをみれば分かるように、数多くの商品が開発されてきた。さら に、こだわり客が増えてくると、ニーズを踏まえた商品体系を増やしていくだけ では対応しきれなくなり、より充実した個別対応が求められるようになる。その 個別対応の中身は、家族構成にあわせたプランニングだけでなく、生活者の暮ら し方にあわせた生活空間を具現化するところまで“進化”してきている。
本来、こうしたニーズに対しては、建築設計事務所なり建築家が扱ってきたジ ャンルであった。が、いまや大量生産・大量供給を前提とするハウスメーカーも 同様に対応していかなければ生き残っていけない時代に入っている。
それだけ、自分の暮らし方にこだわるユーザーが増えてきているということで ある。こうした傾向は、今後ますます強くなっていくことが予想され、ニーズを 定量化して捉えることは難しくなる。こうしたなか、ハウスメーカーはどのよう な戦略を考えていかなければならないのか。
東急ホームがこの春に発表した新商品「ミルクリーク・ビアロッソ港北モデ ル」は、こだわりユーザーに対する、ひとつの方向性を示唆している。
■共創関係を重視する東急ホーム
東急ホームは、昨年度から「共創型次世代住宅&住生活研究会」を設立して、 新しい住まい方の提案、住まいに関連した新しいものづくりを具現化するための 活動を開始。その第1弾となるのが、今回発表した新商品である。 まず、同研究会の住まいづくりへの取り組み姿勢をみておこう。
◇異業種によるコラボレーション
「住生活」にかかわりをもつ異業種企業に参加してもらい、それぞれの立場か
ら、新しい住生活需要創出のためのヒントを相互に出し合える場とする。
1.グループ外共創=東急グループ外の住生活関連企業との共創
家具、化粧品、造園、自動車、家電など異業種企業との研究成果を今回開発し
た新商品「ミルクリーク・ビアロッソ港北モデル」で具体化した。
2.グループ内共創=東急ハンズ、東急セミナーBEとの共創
東急グループの生活文化創造企業である東急ハンズ、東急セミナーBE、東急
ホームが毎日の暮らしを愉しむための空間づくりを様々な角度から考え提案する。
▽東急ハンズ:楽しむための材料提供(素材・道具の販売)
▽東急セミナーBE:楽しみ方の情報提供(技術・教養・家での空間づくり)
▽東急ホーム:楽しむ空間の提供、実物・実例の展示
◇モニターとの共創
生活関連用品のメーカーにとって、顧客の声を反映した商品開発とライフスタ
イルの提案が必須の時代となっている。
一般の方を対象として首都圏を中心に100人程度の「モニター研究員」として
登録してもらい、商品やモデルハウス、試作品の評価、テーマを決めた討論会な
どに参加してもらう。モニターの意見を共創企業各社の商品開発に反映させてい
く。現在、64名がモニター研究員として登録している。
異業種企業とのコラボレーション成果は「港北モデル」に反映されており、そ
の具体的な提案には次のようなものがある。
大手化粧品メーカーとの共創により生まれた空間が「パウダーシティング」と
いうバス、シャワースペース、化粧カウンター、クローゼットが一体化されたス
ペースである。
東京電力とはオール電化による快適生活、セコムとは非常時の威嚇機能を備え た「TSホームセキュリティーシステム」を開発、第一園芸とはガーデニング提 案、大塚家具とはスパニッシュコロニアル様式にあわせた家具の提案、などがあ る。
東急ホームでは、異業種企業との共創による提案を、さらに積極化していくと ともに、モニター研究員を通じてのこだわりをもつ生活者の知恵を住まいづくり に採り入れていくとしている。
■こだわりが成熟するまでユーザーは動かない
商品を開発するにあたって、こだわり客のニーズを定量化するのがますます難 しくなると、先に触れた。だが、当のこだわり客が具体的にどのような人生設計 なり暮らし方をしたいのかを明確にもっているかというと、決してそのようなこ とはない。
多くのユーザーは漠然としたイメージを描いているに過ぎない。しかし、カタ チになったものをみると「これとは違う」「感覚が合わない」といた言葉だけが 返ってくる。実に厄介な存在なのである。
ハウスメーカーにとって、こうしたユーザーを取り込んでいくにはどうしたら よいかが問題になってくる。結論からいうと、いわゆる従来の商品を提示して売 るという対応では、いくらニーズの多様化、細分化に合わせた商品を開発しても、 それにダイレクトに反応を示すユーザーは限られるということである。
ユーザーの漠然としたこだわり感覚を具現化していくには、ユーザー自身が自 分でイメージを成熟させるまで待たなければならない。また、こだわりを持って いるユーザーは比較的知識欲が旺盛である。そのため、営業マンのセールストー クやプレゼンでは満足できず、カルチャースクールの講師の話の方を信用する。
カルチャースクールの住まい文化講座やワイン、料理、手芸など趣味の講座で 学んだ“香り”を住まいに反映させたいと思うのである。もちろん、カルチャー スクールに通う人だけがこだわり客になるわけでないが、要は日々の生活のなか で得た知的欲求を住まいのなかにも持ち込みたいということである。
そうした観点からみると、東急ホームがグループ内共創で趣味の道具や材料を 販売する東急ハンズ、カルチャースクールの東急セミナーBEと「HBHプロジ ェクト」という連携を組んだことは興味深いものがある。
HBHプロジェクトのカタログには次のようなコピーがある。
「HBHが考えると、ドローイングのための空間はこうなります。油絵の場合
は、絵の具が乾くまでそのままの状態で保存しておく必要があるため専用のアト
リエがあると理想的。床はタイルにすると汚れを気にすることなく制作に没頭で
きます・・・」とあり、後半に東急ホームであれば理想的なアトリエの提案がで
きると続いている。
趣味で油絵をやっているユーザーにとって、心をくすぐられるものがあるので
はないだろうか。
家を売らんがために、営業マンが提案するアトリエはセールストークとしか聞
こえないが、カルチャースクールの延長線にあるアトリエの提案は身近に感じや
すい。たとえ、両者とも同じようなプレゼンであったとしてもだ。
ユーザーがこだわりを自らイメージできるまで待つ。しかし、住宅を売ること を生業にしているハウスメーカーにしてみれば、そんな悠長なことをしているわ けにいかない。そこで、考えられることは見込み客を囲い込んでおけるファンク ラブを作ることである。
HBHプロジェクトは住関連の東急グループが結束したファンクラブ作りとい える。昔から、東急ホームに限らず、多くのハウスメーカーは友の会やファンク ラブなどを作ってユーザーをつなぎ止めてきたが、今回の東急グループの動きを みていると、ファンクラブの中身をもう一度練り直すべき時期にきているように 思う。
■自然素材で成功している埼玉の工務店
こだわり客に向けたファンクラブということでいえば、組織が大きくなりすぎ
て小回りが利かないハウスメーカーよりも、地域に密着した意欲的な工務店の方
がうまく活用している。
健康志向の高まりから、自然素材を使った住まいづくりがブーム的な様相を示
している。この分野は個別対応で仕様を決めなければならないため、標準仕様で
効率化を図っているハウスメーカーが不得手としている。
そこで、多くの工務店が自然素材をウリにしているのであるが、ブームになっ ているだけあって、いまや単に自然素材を使ってますだけでは、説得力に乏しい。 自然素材を使うにしても健康との関係を追求していく必要がある。知的欲求の強 いこだわり客は、その関係にこそ注目しているからだ。
埼玉県のある工務店は、自然素材の枠を広げて、地域の気候や風土にあわせた 材料を使い丁寧に手づくりする。さらに、住まいを手入れしながら、代々住み継 がれていくべきだという理想を掲げている。
▽埼玉近辺の気候や風土にあった建て方、構造構成、建材の使い方、手づくりに
こだわる。
▽新築の段階から施主参加のセルフビルドが理想的。
▽施主が自分でデザインしたドアや家具、カウンター、小物を使い、塗装や左官
工事も楽しんでみる。
▽できるだけ地球環境と身体に負荷をかけない家づくり、自然素材や古材、雨水、
太陽光発電の利用など。
▽設計の段階から方位や風の流れ、窓の位置、軒の深さに配慮し、太陽や風の力
を最大限利用する。
――などをあげている。
こうした企業姿勢に対する埼玉県内のファンは多い。だが、少ないスタッフで
対応するファンサービスには苦労も多い。
「当社では新築のほか、エコリフォームも推奨しているため、施主やその仲間
がセルフビルドで自然素材の塗料で壁を塗りたいとか、床下に竹炭を敷き詰めた
いという人が来る。その場合、技術指導を引き受けることも多い。
しかし、スタッフが出向いて1日あれこれ現場で指導しても、全くのボランテ ィアになってしまう。気持ちとしては、有料にしたいが、今のところお金を請求 できるような状況ではない。
また、そうした指導現場で知り合った人が、ホタテ貝を原料にした塗料を売っ
て欲しいといって当社まで来るが、この対応だって大変だ。
塗料を分けてあげるのはいいが、こうした塗料は業務用なので10klも入ってい
る。でも、その人はそんなには必要ない。
そこで、必要な分量だけ量って別の容器に入れてあげなければならない。これ だって、そうした人がちょくちょく来ると、けっこう時間が取られる」。
こうした苦労が堪えないということであるが、ファンは確実に増えており、特 別な営業などしなくても安定した注文があるという。この工務店の営業といえる のは、ファンを対象に専門家を招いて自然素材と健康に関するセミナーを年に2 回ほど開催することである。
先にカルチャースクールの話をしたが、同様な効果が発揮されているとみてい いだろう。参加者はセミナーで得た知識を試してみたくなり、その工務店から材 料を分けてもらい、ときには技術指導まで受けることができる。
こだわりが熟成して、建て替えやリフォームを業者に頼むことになれば、信頼
関係ができあがっている、その工務店に施工を依頼することは明白である。
規模は小さくても、東急グループが進めているHBHプロジェクトと同様なこ
とが行われている。この工務店は、マーケティング的にその効果を特別意識して
いないかもしれないが、確実にこだわりニーズを捉えているといってもいいだろ
う。
むしろ、すでに実績をあげているだけに、こだわり市場の先端を行っている。
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