東京都の「東村山市本町地区プロジェクト」は住宅業界にとって見逃せない動きだ!
東京都が進めている“狭くて高い”東京の戸建て住宅を根本的に変える「東村山市本町地区プロジェクト」を解説してみたい。これからの住宅問題を考えるとき、参考になるテーマでもある。
同プロジェクトは昨年の秋になるが、石原都知事が議会の質問に対する答弁のなかで打ち出され、一部のマスコミで“都知事の大胆宣言”といった扱いで報道されたので、ご存じの方もいるだろう。
どのような答弁であったか、あらためてその内容を議事録から紹介しておこう。
◎「高級プレハブは非常に中間搾取が多いね」
「この高級プレハブっていうんですか、いわゆるプレハブですね。何か昔の飯場に毛の生えたみたいなものじゃなくて、ちゃんとした何十年も住めるつもりで建てるプレハブは、非常に中間搾取が多いね。
それから、やっぱりメーカーは、名前は挙げないけど、皆さんよくご存じでしょうが、自分で工務店を持っているわけじゃない。職人を抱えているわけじゃない。それをかなりの価格を上乗せして売る。それを受け取る方も、その価格じゃなかったら引き取れない。
だから、場合によったら、プレハブのような新しい高級プレハブをつくる会社をつくったっていいと思っていますよ。私、何かそういう相談もしていますけどもね。それはやっぱり歴然としたものがあるね。その中間搾取。本当に、要するに、住宅に関しての日本の流通はおかしいよ」 ――というものであった。
つまり、ハウスメーカーの供給する住宅は中間搾取が多く、流通もおかしいと批判、そこで、都がイニシアチブを取って“安くて広い”住宅を供給すると発言した。
この時点では、石原都知事お得意のパフォーマンスか、という噂もあったが、その後具体的な詰めが行われ、具体的な構想としてまとめられたのが、今回のプロジェクトである。プロジェクトはまちづくり編と実証実験編に分かれているが、そのポイントは次のようなものである。
@都営住宅の建替えによって生み出された土地を活用して、優良な住宅市街地開発のノウハウを有する民間企業グループを公募・選定し、多摩地域の郊外型居住モデルを提示するまちづくりを行う。
Aあわせて、本事業用地の一部を使用して、戸建住宅の価格引下げに向けた先進的な取組に賛同する住宅生産者を公募・選定し、建物価格が3割程度安い戸建住宅の実現を目指した実証実験を行う。
B郊外型居住モデルを提示するまちづくり」と「戸建住宅の価格引下げの実証実験」の公募プロポーザルを同時並行で行い、それぞれ事業予定者を選定する。
住宅業界として気になるのは、「3割程度安い戸建て住宅の実現」と「戸建住宅の価格引下げの実証実験」の中身である。というのは、住宅の建設コストにメスを入れる政策として、これまで国が「ハウス55計画」や「アクションプログラム」を打ち出し、コスト低減を目指したが、ほとんど成功してこなかった経緯があるからだ。
石原都知事に自前で工務店を持っているわけでも、職人を抱えてもいない、中間搾取していると批判されたプレハブメーカーは、お手並み拝見と冷ややかな目で、成り行きを伺っているに違いない。
◎価格を3割引き下げる実証実験とは
さて、戸建て住宅の価格を3割引き下げる「実証実験」とは、どのような構想なのだろうか。同プロジェクト実証実験編から具体の部分を抜き出してみた。
◇住宅の提案
敷地面積165u (50坪)程度の整形な土地に、延べ床面積132u (40坪)程度の戸建住宅を建設するものと仮定して提案すること。 建ぺい率は50%以下、容積率は100%以下、高さは12m以下とする。また、壁面は、主要な前面道路から1m以上後退させること。
(1) 住宅の本体価格(注文住宅の場合は請負金額ベース、分譲住宅の場合は販売価格ベース)は消費税額を除き、坪単価50万円(40坪で 2,000万円)以下とし、質については、坪単価72万円程度(住宅金融公庫の規模規格調査における東京都下個人住宅建設融資の平均建築単価)の住宅が一般的に有する質を確保することを最低限必要な要件とする。
最低限必要な要件を満たした上で、より低価格、より高品質の住宅を提案すること。その場合、以下の@〜Bまで、幅広い提案を可能とする。
@ 標準的な質を確保しつつ、より一層の価格低減を目指す提案
A 価格の低減よりは、標準的な質を上まわる質の向上を目指す提案
B 価格低減と質の向上の両方を目指す提案 質の向上を目指すに当たっては、70年間にわたり住宅の質的魅力、価値を維持できるようにすることに特に留意すること。
(2) 住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく、住宅性能表示制度の設計住宅性能評価書を取得し提案時に添付すること。その際、劣化対策等級、維持管理対策等級については、等級3を取得すること。
(3) 「東京都安全・安心まちづくり条例」に基づく「住宅における犯罪の防止に関する指針」の規定に適合すること。
(4) 間取りプランについて、以下のような可変性を有するものであること。
▼様々な間取りプランの設計が可能なものであること
▼建築後の間取り変更が容易であることなお、提出する間取りプランは、多様な家族構成等に対応可能な普遍性を有する間取りプランとすること。
(5) 提案する住宅について、主要な仕様・設備及び経費の内訳を明示すること。
(6) 住宅は、それを生産する生産システムとともに複数を提案することも可能とする。
◎可能な限り中小工務店が元請けになれるシステム
◇生産システムの提案
(1) 設計、資材調達、施工等の各段階にわたり、次の例示のような合理的な生産システムを提案すること。ただし、例示の内容について、全てを備えることを提案の必須要件とはしない。
▼設計:仕様の標準化、普遍性・可変性の高い間取りプランなど
▼資材:部材や部品の少点数化、資材流通経路の短縮、計画的な一括購入など
▼施工:手待ちや手戻りのない工程管理、重層下請け関係の排除、腕のよい職人集団の活用など
(2) 住宅を良好な状態に維持するためのアフターサービス(体制・内容・期間等)、標準的な長期修繕計画(費用を含む)を提案すること。
(3) 上記の生産システムの提案は、次のいずれの要件も満たしていること。
▼可能な限り多くの中小工務店等が元請けとして用いることができる、技術面、経済面において汎用性の高い生産システムであること。
▼中小工務店等から求められた場合に、提供することができる生産システムであること(有償、無償を問わない)。
▼事業予定者に当選した場合、都と協議の上、生産システムの概要を公表できるものであること。
(4) 生産システムの提案は、それによって生産される住宅とともに、一つまたは複数を提案するものとする。
――と、求める要求、提案内容は多岐にわたっている。
分かりやすく整理すると、50坪の敷地に延べ床面積40坪の家を建設する。住宅の本体価格は消費税を別とし、坪単価50万円以下で、質は従来の坪75万円程度で供給されていたグレードを確保することが最低条件であるとしている。
また、生産システム段階では、重層下請けを排除して腕のよい職人集団を活用する。また、可能な限り中小工務店が元請できる生産システムも求めている。 石原都知事が中間搾取とハウスメーカーを批判していただけに、工務店に光があたるシステムの提案が求められているといっていいだろう。
「実証実験」住宅は100戸の建設が計画されている。
◎評点方式で優秀案を選定、来年の1月に事業者決定
審査方法は応募者から提出された提案書等に対して、応募資格要件、価格・住宅性能表示・防犯対策に関する必須条件及び基本的事項についての適格審査を行うとともに、提案事項についての評点方式による審査を行う。
提案書等の審査は審査委員会(委員長:小林重敬氏)が行い、優秀提案応募者(3者程度)及び次点を選定する。
評点方式の審査の内容は次のようになっている。
◆実現しようとする住宅の内容の評価=40点
より低価格、より高品質の住宅を目指す本実証実験の趣旨を踏まえ、特に70年間にわたり住宅の質的魅力、価値を維持できることに留意しながら、住宅の価格及び質について、以下の@〜Bの視点から総合的に評価する。
@住宅の価格A住宅の仕様・設備、性能、意匠B間取りプランの普遍性、可変性
◆用いる生産システムの提案内容の評価=40点
1.生産システムの合理性
@生産システムが技術的に実用化できるか。 (実用化が不可能な場合は、基本的事項の審査で不適格とする)
A生産システムにより、提案どおりの住宅の質が得られるか。
B生産システムにより、提案どおりの住宅価格が実現できるか。
2.生産システムの汎用性
@生産システムが中小工務店等にとって、技術的に利用が容易なものであるか。
A生産システムが中小工務店等にとって、利用に際しての経済的負担が少ないものであるか。
B中小工務店等が生産システムを利用しようとする際の、その他の制約条件が少ないものであるか。
C中小工務店等が生産システムを利用しようとする際の、システム提供者からの支援が受けやすいものであるか。
3.長期にわたり住宅の質的魅力、価値を維持するための引き渡し後のアフターサービス面での措置
@アフターサービスの体制、内容、期間等が十分か。
A標準的な長期修繕計画(費用を含む)、ライフサイクルコスト(光熱費等を含む)を削減する工夫等が適切か。
◆総合評価=20点
1.全体的な整合性 提案全体に整合性があるか。 (提案が全体として著しく整合のとれていない場合は、基本的事項の審査で不適格とする)
2.きわだった創意工夫
@評価対象事項について、きわだった創意工夫があるか。
A評価対象事項以外について、きわだった創意工夫があるか。
3.まちづくりの誘導目標に対する適合、貢献
「多様な世代が集う活力ある地域コミュニティの形成」、「美しく品格のある住宅市街地の形成」、「子育て環境や高齢者福祉機能の充実」等、プロジェクトのまちづくりの誘導目標に適合し、あるいは貢献する提案であるか。
この「東村山市本町地区プロジェクト」は、すでに民間事業者公募の説明会を終え、提案書の受付:10月25日〜11月5日、事業予定者の決定:平成17年1月下旬――のスケジュールで進められている。
石原都知事の“大胆発言”からスタートしてプロジェクトであるが、住宅の生産システムにまで突っ込んだ提案競技は久しぶりである。
都営住宅として戸建て住宅を供給するのであれば、都としての仕様を決めて競争入札すれば解決する部分も多いと思われるなかで、あえて、都営住宅という枠に留まらず、住宅供給のあり方を問う姿勢は石原知事らしい発想といえるかもしれない。
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